月島は各河川に堆積した土砂を浚渫し、明治25年(1892)に石川島・佃島の南に埋め立てられた島だ。その後も2年置きに勝どき・新月島と埋め立てが進み新しい島が生まれていった。 佃島・月島は戦災を免れた為に昭和の懐かしい家並みが残っていて、地図やカメラ片手に散策する人や、ゆっくり写生を楽しむ人たちを見かける。 筆者もこの日はこの辺りに係留されているかも知れないあるタグボートを目当てに、朝潮運河に沿って歩いた。 ほとんどの家が味気のない新しい家に作り替えられている中に、昭和の路地とその路地に面して寄り添うような家々が建つ一角があった。 一つの路地の先は新しい家々が立ち並ぶ通りへと続き、一つの路地の先は行き止まりで、堤防の先にきらめく明るい光がそこに運河があることを示していた。 潮の香がするような気がして、一方の運河への路地に足を踏み入れ二三歩進むと、懐かしさよりもそこにある優しく穏やかな空気にハッとなった。 何かに例えるならば、素焼きの瓶に一晩寝かせた焼酎の前割りのように角が取れた丸みのある味、そんな丸く浄化されたような空気がまるでマイナスイオンに全身を覆われたように、そんな気配に包まれたように感じた。 かつての月島は京浜工業地帯の一角をなし、多くの労働者が集まりその人たちの為に二階建ての棟割長屋が建設された。 今の時代、当時は決して上級ではなかった筈のこの棟割長屋に郷愁や魅力を感じる。 それは当たり前の材料で当たり前に作られた住む人の為の家が、今の家とは違うことへの郷愁であり回顧であり羨望なのだろうか...。
by finches
| 2009-11-23 07:42
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