229■■ 通気孔
b0125465_1874487.jpg

海の中から突き出たものは通気孔で、この下に何キロも掘られている海底炭鉱のものだ。
時々思い立ってこの場所を訪れるが、辺りの建物が廃墟となり朽ち果て、やがて草に覆われてその痕跡が消滅して行く中、この海から突き出た通気孔だけはいつも同じ姿に見える。
しかし、それは遠くで見ているせいで、近づくと波に浸食された惨(むご)たらしい姿を晒すことだろう。

今これを書いている部屋の壁に、ある画家の炭鉱の油絵が掛かっている。その絵は炭鉱の櫓とその周辺の風景を描いたもので、その空の逆光で描かれた心寂しい黒い世界と、この通気孔の逆光の世界とにどこか同種の匂いを感じる。
両者は全く違う場所なのだが、一方は閉山間もない(稼働している時のものかも知れない)世界を描いたもので、一方は廃墟となった現在の姿なのだが、炭鉱という響きが持つどこか廃墟的なイメージから同じように見えて仕方がない。

初めてここを訪れた時、炭鉱は既に閉山していたが、炭住と呼ばれる赤いセメント瓦の長屋が幾つも軒を連ね、大勢の人がそこに暮らしていた。その部落を抜けると綺麗な砂浜が続き、そこから海を眺めると2つの通気孔が見えた。二つ目の通気孔は更に沖合いにあって、手前に同じものがなければ、それが何であるかも分からないくらいに小さく見えた。

こんな風景が記憶の中にはいくつもあって、その無駄な装飾などを一切排した機能美の美しさに惹かれてきた。
今、それらは近代産業遺産と呼ばれるようになったが、そう呼ばれるようになったのは多くの貴重な歴史の語部が既に姿を消した後だった...。

by finches | 2009-12-14 08:13 | 無題


<< 230■■ 炭火と干物 228■■ CASA FLOR >>