351■■ 村野藤吾-妖艶礼讃
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少年の記憶の中にある幻想的思い出にこの石の台座のようなモニュメントもある。
町の発展の礎を築いた人物を顕彰して建設されたこの音楽ホール(市民館)の正面には、その発展を象徴する7つの会社を表現したモニュメントが建っているが、正面から見て左右のそれぞれ3つは板柱上に聳えるているのに対し、中央の一つだけがこの台座のようなモニュメントに置き換えられている。

コンクリート打ち放しの6本の柱の荒く力強い表現に対して、この中央に置かれた直方体の固まりは磨かれた大理石で覆われ、そのツルツルした冷たい手触りと子供の背(せい)では飛び乗るに乗れない高さに、これは一体何なんだろうという疑問をこの建物に来る度に抱いたことを鮮明に覚えている。
そして、今頃になって漸くこの建築とこの7つのモニュメントとの関係と意味が分かってきたように思う。

もう一つ、この建物の外壁タイルの色と、ところどころ飛び出たタイルが作りだす非均一的な表現を不思議に思って見ていた。
また、この外壁タイルは塩焼きタイルと呼ばれ、時間が経つにつれ紫系統の色に変化する特徴を持っていて、そんな摩訶不思議なタイルが作り出すどこか妖艶な印象を、子供心に何か不思議な建物と思わせていたのだろう。
焼成時に塩水を使うために塩焼きタイルと言うのだが、今は公害問題から製造が禁止されているのが残念でならない。

この建物のリニューアルに際しこの壁面タイルは極力塩焼きの色合いに再現した還元焼成タイルで張り替えられたが、その時のタイルを手に入れ新築中の自邸に自ら貼っている人に数週間前に出会った。
そろそろ羽田に向かう時間が近付いてきた。
これからこの不思議な建物と、数日前に完成したその自邸を見に行くことにしよう...。

by finches | 2010-04-28 03:23 | 記憶


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