D-51形蒸気機関車の製造が開始されたのは昭和11年(1936)のことだ。 この年はこれまでに拙稿が取り上げた東京の鉄筋コンクリート造による改築小学校で言うと、四谷第四小学校や江戸川小学校が竣工した年に当る。 この時代は今では考えられないことだが、優秀な役人と技師が真面目にこの国の未来の為に情熱をもって真剣に取り組んでいた時代で、それがこの時代の新しいデザイン運動と一緒になって様々な実にユニークな造形を生み出していった。 D-51はそんな時代にあって正に最先端の技術が結集され完成した名機関車と言えるだろう。 1970年代前半に我が国の鉄道から蒸気機関車が完全に姿を消して久しいが、公園の一角に保存されているD-51の運転席に入ってみた。 高圧蒸気が通る管がまるで血管のように走り、圧力計やバルブが其処此処に付けられ、運転席と助手席の間には石炭を投げ入れる投入口があって、よくぞこんな狭い所で黒煙と蒸気にまみれ作業ができたものだと感心した。 しかし、それは過酷ではあったろうが安全を身一つで守る責任と充実感、そしてこの巨大な怪物を我が手で支配して動かす満足感、汗にまみれ真っ黒になった顔からゴーグルを外した時の開放感は一入(ひとしお)であったことだろう。 写真中央が石炭釜の投入口、その左右が運転席と助手席で夫々の小さな丸窓が左右に見える。 今はペンキで塗り固められているが、現役時代はメーターもバルブも血管のような管もみんな油の滲み込んだ布で磨かれ、夫々が金属の美しい輝きを発していたことだろう。 それは使い込まれた輝きであり、生きているものが発する生命の輝きであったろう...。
by finches
| 2010-07-07 07:18
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