5つの楕円がある低い天井の先にはこのホールの大空間が待ち構える。 その天井はこんな風に5つの二重の長方形が間接照明に照らされ妖しく浮かび上がっている。 この建物は今から16年前に改修が行われたが、そのせいか幼い時の記憶にあるあの幻想的な天井とは何だかちょっと印象が違う。 スポットライトもあんなにあったっけと思うし、照明の色もこんなに白くはなかったような気がするし、灯りがつくり出す影もこんな斑ではなくもっと滑らかで幻想的だったように思う。 兎に角このホールに入りこの天井を見る度に、その何とも不思議な感覚にウットリしたことは間違いない。 この建築が生まれたのは1937年(昭和12年)だが、村野が全国に残した多くの劇場の中でも、その空間に身を置いて感じるその研ぎ澄まされた感性は群を抜いているように思う。 村野は1963年(昭和38年)に完成した日比谷の日生劇場で初めてアコヤ貝を天井に使い、その後も生涯このアコヤ貝を使い続けたが、それはそれで村野の手になると厭らしくもなく見事なまでに昇華した美しさを秘めている。 しかし、その26年前に完成したこの建築の天井は硬質石膏だけで出来ているにも係わらずその表情は無限に豊かで、それも偏にこの縁を丸く取って角を消した5つの二重の長方形を置いたことで生み出されていると思う。 この天井はカーブしながらプロセニアムアーチの上のスピーカーが納まっている曲面部分へと繋がっているが、この部分も何とも上手く処理されていて感心一入だ。 まだまだある、5つの二重の長方形はだだ単に天井に開けられているのではないこと、天井の丸い空調噴出口が絶妙な配置とプロポーションを見せていること、天上から吊り下げられた電球のペンダントが壁に美しいシルエットを映し出すこと、などなど論うときりがない...。
by finches
| 2010-07-23 06:38
| 空間
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