青々と続く稲の絨毯の向こうの少し小高い場所に小さな木造の講堂があるのを見付け訪れたことがある。 見学を請うと日直だった校長先生自ら快くその講堂を案内してくれた。 その昭和11年にできたという講堂の内部は戦前の教育の面影をそのまま残し、新しい体育館が完成すれば取り壊される最後の夏、講堂内は外の猛暑とは裏腹にヒンヤリとした空気が止まっていた。 青々としていた稲が黄金色に色付き刈り入れが始まろうとする頃、少し小高い場所に建つ講堂は白いシートに覆われ、その中からは取り壊しの音が聞こえていた。 そして、稲刈りの跡に伸びたひこばえの頃、その講堂はキレイに姿を消しその向こうにかつての講堂の形に似せた新しい体育館が顔を見せていた。 講堂を訪れた帰り夏草が生い茂る卒業製作の彫刻を見付けた。 その目付きの悪い白い怪獣の頭と尾の辺りからは夏草が鼻毛か五右衛門カットのように勢い良く伸び、その目付きの悪い表情と相俟って何ともユニークに思えた。 竹と太い針金で骨格をつくり、それに細い竹を編むように針金で縛り、それに少しずつ石膏を塗り重ねて作られたのであろう、その目付きの悪い怪獣の誕生の様子を思い描きながら、彼らが今のこの姿を見たらどう思うだろうかと考えた。 きっと彼らは製作の思い出に話を弾ませ、今のこの姿と重ね合わせて話は尽きないだろうと思った。 東京に戻る準備をしながら、兎に角忙しく走り回っていた一瞬に出合った目付きの悪い怪獣の思い出を書いておこうと思った...。
by finches
| 2010-12-06 05:27
| 時間
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