656■■ これより、ここまで
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ひーさんの散歩道





三日前の朝、出掛けに始まった国会中継での自民党総裁と首相のやり取りに聴き入った。
巧みな質問、噛み合わない答弁、発端となった斑目発言の本人による事情説明、どこに嘘があるにせよ、顔色や表情ひとつ変えず答弁し同じ説明を繰り返す両者にやり場のない焦燥感を抱いた。
その日はそんな朝の出だしの悪さのせいか、終日気分のすぐれない一日を送った。

さて、巨大津波発生から何日か経ったある日、次々に目にする被災地からの写真の中で、津波に呑まれた津波警戒区域を表示した標識に目が止まった。
その折れ曲がった標識の写真を見ながら、複雑な気持ちになったことが忘れられない。

  2010年2月チリ中部沿岸地震 3メートル ⇒ 1.2メートル
  2009年9月サモア諸島地震 0.5メートル ⇒ 0.36メートル
  2008年9月十勝沖地震 0.5メートル ⇒ 0.17メートル
  2008年7月福島県沖地震 0.5メートル ⇒ 0.15メートル
  2007年ペルー沖地震 0.5メートル ⇒ 0.15メートル
  2007年1月千島列島東方地震 0.5メートル ⇒ 0.27メートル

これらは気象庁が公表している津波データの岩手県における値で、左の数字が予報値、右は実際の測定値を表している。
これまでの筆者の記憶にある気象庁の津波警報の結果は、いつもその測定値が予報値を大きく外れ、これでは本当の大津波が来た時にどれだけの人がその数値を信用するのだろうかと訝っていた。

その気象庁も今回の被害にはさずがに肝を冷したようで、正確な津波警報の為に有識者らによる勉強会を設置するというのだから、まさに開いた口が塞がらない。
いくら観測機器を充実させても、スーパーコンピューターで短時間での解析が可能となっても、最後にそれを発表する人間が旧態依然とした組織の仕組の中で、杓子定規にしか判断が下せないのであれば、その存在自体不要と思えてくる。
それなら、これから勉強会を開くくらいなら、観測データをNOAA (National Oceanic and Atmospheric Administration) のスパコンに同期させて、分析と予報もNOAAに委ねた方が確かだろう。

気象庁は地震発生後3分後に大津波警報を出した。
だが、津波規模を小さく予測したのに加え、最初に観測した1メートルに満たない津波の高さを発表したことが、住民の避難判断を誤らせた。
具体的に時系列でみると3月11日、地震発生3分後に大津波警報を発令し、4分後に岩手県に3メートルの津波の襲来を予想している。
そして、28分後には6メートルと切り替え、45分後には10メートル以上とその予想値を大きく訂正している。
しかし、その時には停電により、被災地は既に気象庁からの情報を受け取れない状態に陥っていた。

まるでイソップ童話の『オオカミと少年』そのままで、オオカミが来たといつも嘘をついていた羊飼いの少年が、本当にオオカミが来た時には、誰もそのことばを信じる者はなく食べられていまうという話、これと同じだと思う。

津波警戒区域を表示した標識に『これより先、津波浸水想定区域』と『津波浸水想定区域、ここまで』という二つがある。
『これより』はここまでは安全だと思わせ、『ここまで』はこれより安全だと思わせる。
だが、現実には、ここまでは大丈夫だった筈の標識(写真左上)が津波の瓦礫の中に傾いて立っていたのが、最初に書いた被災地の写真だった。
一方、過去の津波の名を挙げて、ここまで来たという標識(写真左下)もある。
また、避難場所を具体的に示し、暗闇でも分るようにした標識(写真右)もある。

『これより、ここまで』の表示は国によって、それ以外は市によって設置されたもので、同じ津波掲示においてもこれ程の差がある。
前者にはなく後者にはあるものは、何が必要か、何を伝えなければならないかという、その相手を見据えての思想の有無だと思う。

『これより、ここまで』の表示は気象庁の当らない予報と同じく、住民に先入観と安心感と自己判断を植え付け、それらが避難の最終判断を遅らせ誤らせた結果、助かった筈の被害者の拡大を招いたことを、国による一方の人災として見過ごしてはならないと思う...。

by finches | 2011-05-26 04:52 | 無題


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