700■■ 音の正体
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屋根の小屋組のどこかから聞こえて来る微かな音は、その翳の部分から聞こえる乾いた音で、水が滴っているような、カサコソとものが蠢いているような、そんな微かな音だった。
早朝と言ってもまだ辺りは真暗な中一人で部屋に入り灯りを点けて、音のする筈のない屋根のどこかから消え入るような微かな音が聞こえて来るというのは余り気持ちのいいものではない。

音質(おとしつ)としては水音のように聞こえるのだが雨が降っている訳でもなく、これは錯覚だろうと否定した。
後唯一考えられる音源(おとげん)としては、天井の梁に付いていた何だかは分らない昆虫の卵を取り除かずに放置しておいたことで、それが闇の中で孵化していることが考えられた。
その場合、もっとも考えられるのは守宮(やもり)が闇の中で殻を破り蠢く音ではないかとその光景が頭に浮かんだ。

早速その正体を確かめるために梯子を架けるにしても一人では危険だし、恐る恐る覗き込んでその翳の部分から何かが飛び出して来ようものなら、それこそ恐れ戦き梯子から落ちてしまわないとも限らない。
怖い怖い、気にはなるもののもう少しこの状況を静観しようと心に決めた。

ところが思わぬことからその音の正体が判明した。
日中も聞こえることから、それは闇の中だけの音ではないことが分った。
改めて耳を澄ますとやはり水滴の音に聞こえてならない。
思わず障子を開け窓を開けて下を見ると、庭隅の立水栓から滴るように水滴が零れ落ちている光景が目に飛び込んで来た。

水滴の音が下に反射しその上に絶妙な角度で突き出た屋根の軒に当たり、それが天井を外した小屋組に伝わりあたかもそこが音源のように聞こえていたのだ。
だから、屋根のどこからその音がするのか分らなかった筈だとひとり合点した。
今朝は屋根からの音は消え、北からは国道を走る車の騒音、南からは時折小鳥の鳴き声が聞こえている...。

by finches | 2011-09-29 06:07 | 空間


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