754■■ 畳の縁
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畳8枚の表と縁の張り替えが終わった。
丁寧な仕事をする畳屋だと聞いてその仕事場を訪ね、小一時間あれこれと会話を交わしたのが最初だった。
その後も何度か訪ねては色んな話をした。

当然のことだろうが、初め畳屋は手持ちの材料を薦めた。
それに対して一々注文をつけるのだから、きっと面倒な客が来たと思われただろう。
もう年だし腰も悪いし仕事も減ったし、そろそろ廃業するつもりだとも言ったりした。

縁は無地にしたいと注文をつけた。
近年、畳の縁は特別に頼まない限り模様の入った化学繊維のものばかりで、安くて保管が容易なこともあって重宝されている。
無地と言っても化学繊維のものもあるにはあるが、色に深みがなく合繊特有の艶と折り曲げた角の切れが鈍い。
無地の天然ものは綿生地を染めたもので、余るとカビが生えて使えなくなると泣き言を言われた。

縁の色は綿を染めた紺にした。
真行草という言い方があるが、黒を真とするなら、紺は行といったところだろうか、真ではないところに遊び心があっていいと思った。
青畳のいい香りと真新しい紺の縁が、ごく在り来たりな八畳の和室を凛と引き締めてくれた。

八枚の畳を敷き終わった後、畳屋を手伝った一人が「やはり無地の縁はいいねえ」と、しみじみと言った。
それに言葉を添えることはなかったが、畳屋の表情には明らかに嬉しそうな笑みが浮かんでいた...。

by finches | 2011-12-02 06:12 | 空間


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