758■■ 蛸と本音
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片道3キロの温泉通いを日課にしている。
そこには様々な仕事を持った人たちが一日の疲れを取りにやって来て、そこでは毎日常連たちの同じような会話が繰り返される。

そんなたわいない話をいつもは聞き流しているが、昨夜の脱衣場での遣り取りはその人たちの本音が垣間見え、上っ面だけ親しそうに振舞っている人たちの本当の姿を知った。
それは何気ない蛸の遣り取りから始まった。

常連の一人の漁師から3匹の蛸をもらった一人がその数を持て余し、それを蛸好きだと言う別の男に分けるという、そんな蛸好きの筆者にとっては羨ましい光景が展開していた。
蛸好きを自任する男は2匹の蛸をもらい、嬉しそうにそしてしきりに礼を言いながらロッカーにそれを仕舞った。

ここで漁師を第一の男、漁師から最初に3匹の蛸をもらった男を第二の男、そして第二の男から2匹の蛸を分けてもらった男を第三の男としておこう。
第二の男は余って捨てるよりはましだと第三の男に言いながら帰っていった。
それを聞いて、第一の男への第二の男の誠意をその本音の言葉の中に見る思いがした。

新たに蛸をもらった第三の男の蛸談義も一息つくと、新たに一人が湯から上がって脱衣場に入って来た。
すると今し方蛸をもらった第三の男は、その湯から上がって来た男に蛸が好きかと尋ねた。
その男が好きだと言うと、蛸をもらったが自分は蛸は嫌いだからと、まだ舌の根も乾かないうちに2匹の蛸をすべてその第四の男にやってしまった。
その遣り取りに唖然としながら、第二の男への第三の男の誠意をその本音の中に見る思いがした。

筆者は又貸しが嫌いだ。
又貸しが嫌いなくらいだから、又遣りはもっと嫌いだ。
だが、それが目の前で恥ずかし気もなく平然と行われたことに唖然とした。

筆者の頭に第一の男の顔が浮かんだ。
話を交わしたことはないが、湯上りにいつも腰の曲がった連れ合いと牛乳を分け合って飲んでいる光景を微笑ましいと思いながら見ていた。
常連達の本音を思い起こしながら、そんな慎ましやかな漁師夫婦の本音を思った...。

by finches | 2011-12-07 06:07 | 無題


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