昨年、偶然湖への注ぎ口を見つけたT用水を上流に辿ってみた時、それは茂みの中のトンネルに姿を消していた。 だから、地図の中で用水の姿が消えるのは高低さからトンネルに切り替わるからだろうと推測していた。 小春日和の休日の午後、『旦』のつく地で地上から姿を消しているT用水を探して歩いた。 この時期、落葉樹は葉を落とし草は枯れて視界が良く利く。 そして、何と言ってもこの時期は筆者にとってこの世で最も怖い蛇がいないのが良い。 加えて、林に一歩足を踏み入れると、そこはもう誰もいない別の世界で、そんな中にある古い人工物は気持ちのいいものではない。 そんな所に蛇など出ようものなら、と想像するだけで身の毛もよだつ。 まだ初詣の絶えない神社の境内を抜け、神社の裏山で地上に顔を出しているらしい用水を探した。 林に入ると文字の書かれた白い板が目に入り、その先に小さな祠でもあるのだろうと近付いてみると、そこに求める用水があった。 用水の上流も下流側も林の中に消えていたが、行ける所まで行ってみようと先ず下流に向けて歩いた。 用水は橋の上を走り、筆者は一旦用水から逸れて積もった落ち葉の中を橋脚の下に回り、橋の反対側へと出た。 すると再び用水が現れたが直ぐに地下へと姿を消し、驚いたことにその先は20メートル程下に田んぼが広がっていた。 当然、反対の上流側も確かめてみたくなった。 すると同じく水路は地下へと姿を消し、同じく10メートル以上はあろうと思われる崖下には広い道路やスーパーや宅地が広がっていた。 下流側だけを見ていたら、単純に水路が地下に消えたと思っただろう。 だが、上流側の景色を見て、その水路が逆サイフォンになっていて、水をわざわざ山の上まで持ち上げて迂回しているのだと分った。 まだT用水の全貌は分らないが、昨年川をこの逆サイフォンで越える構造物に驚いたが、全区間に渡ってこの水路にはこの逆サイフォンが駆使されていることが推測された。 それはトルファンの地下水路カレーズのように地下に姿を隠し、地上の水路となって森の稜線を走り、谷を橋で渡り、山を逆サイフォンで越える。 筆者にはそれらが正に野を越え山を越え走る用水に思えた...。
by finches
| 2012-01-11 06:37
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