816■■ 川と花が出合う場所
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広い河口は潮が引くとその名に波と鼻と旦の字の付く場所の辺りまで広大な干潟が現れる。
長く川の反対側は川向こうの土地でそこはただ通り過ぎる場所に過ぎなかったが、波の付く地名はかつての海岸の名残、鼻の付く地名はかつての岬の名残、旦の付く地名はかつての低地の名残、潮が引いては現れる干潟はそのことをそっと伝えようとしている。

干潟が終わる辺りで川は不自然な曲がりを見せ、地図の上でそのことが不思議でならなかった。
だが、その曲がりにある小さな森はかつての半島の名残で、江戸時代にそこで川の付け替えが行われた為に川は海へと真直ぐに伸び、そこに不自然な曲がりだけが残されたことが分った。
瀬という一字が付いたこのかつての半島の辺りは汽水域で、ダムが完成する昭和20年代前半までは豊富な様々な海と川の幸に恵まれた豊かで美しい場所だった。

その川はダムの完成によって一変し、一本の美しい流れは下(しも)と上(かみ)に分断される。
ダムは日々の暮らしも、四季折々の変化も、連綿と受け継がれてきた行事も、田畑での農作業も、川遊びや魚獲りも、そして美しい景色やそこでの思い出も奪い去った。

怖かったダム湖畔の道を過ぎて更に上流に進むと、川は次第に細い流れになりながら更に奥の山に向かって伸びていた。
その細い流れの両側にはダムの底に消えた景色を彷彿とさせる田畑が広がり、暮らしがあった。

美しいという字がその名に付く町まで来た。
その町の西に広がる台地から滴り落ちる一滴一滴はその川の流れに繋がっていた。
その台地に咲く花を集めた写真集を買った。
その数は1300種近くにも及び、その川の源流域の一つの、豊かな自然とその懐の深さに感動を覚えた。

かつて裏側だった場所が新しい場所へと導いてくれた。
その場所は何度も訪れた場所ではあったが、そこから見えた景色、そこで知った歴史の深さ、そしてそこで出合った一冊の写真集、怖い思いをしただけにそこでの新しい出合いは此の上なく大きなものに感じられた...。

by finches | 2012-02-07 05:27 | 無題


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