822■■ 早春の台地
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土曜日に顔を撫でるように、髪をそよがせるように吹いたあの弱い南風が、やはり春一番に間違いなかったと思わずにはいられないような、そんな穏やかな日曜日だった。
温泉の水を使い陶器の釜で炊いた真っ白なご飯に梅干を入れただけのおむすび四つを、葉ランで仕切りながら竹皮に並べて経木の細紐で縛り、それを小紋柄の布に包んだ。
番茶を保温筒に入れ、筆者がこれ以上の味はないと認める竹輪を一本放り込んだ。

昔は有料道路だった台地を貫く一本の道の両側に広がる草原は、もう直ぐ行われる山焼きを待って芽吹こうとしているかのように、まだ冬枯れの衣を纏ったままじっとしているように思えた。
微かに聞こえる風と笹の共演によって生み出される音は、まるでそこに水の流れがあって、その水音かと聞き紛わされるような錯覚を覚えた。

この台地をこれ程歩いたことはなかった。
三つの山頂からの眺めも道すがら次々に現れる変化に富む景色も新鮮で、それは遠い記憶の中の景色と重なった。
風が冬枯れの野を揺らす音だけしかない静寂の台地。
動物の気配すらない静寂が支配する不思議な世界も、この台地のもう一つの姿だった。

この台地の植物を集めた写真集は、案の定車の中に置き忘れた。
だが、この何もない冬枯れの野が四季の中でどのように変化するのか、それを見届けてみたいと改めて思った...。

by finches | 2012-02-13 04:50 | 季節


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