833■■ 過去との共存

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この昭和6年(1931年)に竣工したビルも前稿の交差点に面して建ってる。
だが、近い将来道路拡幅に伴い撤去される運命にあるようだ。

同時代の建物が全て姿を消した今、若干の昭和モダンの匂いは感じるものの,特段力量のある人の手によるものとは思えないこのビルにさえも懐旧の念を抱く。
それはこのビルが建設された当時にあって、今にないものをこの建物から感じるせいだろう。

この交差点に面して建つ二つの明治期の煉瓦造建築や大正期の石張り建築と対峙しても、このビルは決して見劣りなどしていない。
それは前者が金をかけ様式という厚衣を纏っているの対して、後者は昭和モダンの薄衣を纏っただけの潔さがあるからのように思う。

このビルとこの交差点の周りを埋め尽くす戦後のビルとの間にある決定的な違い、前者にあって後者にないもの、それは前者の時代にあって後者の時代にないものと言えるかもしれない。
それは、ものづくりへの一途な信念であり、熱き気概ではないかと思う。
そして、建築を単体として捉えず、街並みや環境や風土との共存同栄を考えていることだろう。

そして、もう一つ、そこには街づくり国づくりに向けての時代の風が吹いていたことだ。
きっとそれは爽やかな南風だったに違いない...。

by finches | 2012-02-24 03:24 | 持続


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