895■■ 竹―五月

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昼食を取った後に時々訪れる神社がある。
記憶の中にあるその神社は鬱蒼とした森に囲まれていて、子供の頃は年に一度のお祭りに、大人になってからも数年前まではせいぜい初詣に出掛けるくらいだった。
今も初詣はこの神社に行くことに決めているが、その神社で束の間の時間を過ごすことが多くなった。

祭りでは本殿裏の競馬場でサラブレッドとは似ても似つかぬ農耕馬に、騎手と呼ぶにはこれまた程遠いおっちゃんたちが跨り、そこを馬が走らなければ競馬場とは決して分からない走路を、土煙を上げながら颯爽と走る光景が懐かしく思い出される。
その競馬場も今では何処にでもあるグランドに整備され、かつてそこから見えた森は何処にでもある宅地風景へと変わった。

その神社の参道脇の道は今も筆者が三日にあけず訪れる湯治場へと続いている。
その隠れた湯治場も今では立派過ぎる道が何本も通る道沿いのただの温泉に変わり、周りも目を覆いたくなるような宅地風景がかつての田園風景を駆逐し尽くしている。
筆者にとっては子供の頃、神社の脇から更に山の奥へと続くその湯治場への道は、神社の森の更に奥の森へと続く未踏の地だった。

いつも神社の参道を本殿まで真っ直ぐ進むと、決まって左に折れて競馬場跡に行ってみる。
小鳥の音しかしない林をゆっくりと抜け、今は見る影もなく変わってしまった景色に、かつての記憶の中の景色を重ね合わせ、取り留めもなく物思いに耽る束の間の時間を楽しんでいる。

この日も林の中では新しくこの世に生をうけた孟宗竹が輝いていた...。

by finches | 2012-05-25 04:26 | 季節


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