896■■ ズッキーニ
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函館には普通の人が一生かけても経験しきれない程の多くの厭な思い出がある。
函館には一生忘れられない程のたくさんの楽しい思い出もある。

仕事の為に3カ月のつもりで借りたマンションは港を一望できる歴史地区の高台にあった。
結局そこを3年も借りたことで、厭な思い出は徐々に浄化され、街の歴史や伝統や風土や人々の考え方などを、そこでの暮らしの中で一つ二つと分かっていった。

マンションの管理人のM田さんは北海道の水田発祥の地である大野からの通いで、毎朝通勤途中に買った野菜をマンションのカウンターに置いていた。
住人は欲しい野菜があればそこから好きなものを取って、一品百円を置いておくのがルールだった。
早い者勝ち、なくなればそれで終わりだった。
時には売れ残っている日もあったが、M田さんは残った野菜は必ず持ち帰って、翌朝には新しい野菜を買って置いていた。

前の道の向こう側には小さな畑があった。
その畑もM田さんが手入れをしていた。
道に沿った畑は細長くて狭く、遺愛幼稚園のある反対側は急な崖になって落ちていた。

そこでM田さんが育てた野菜もカウンターに並べられたが、それらからお金を取ることはなかった。
筆者はM田さんが育てたズッキーニが好きで、それが置いてあるとよくもらって行っては料理に使った。
ズッキーニがキュウリではなくカボチャの仲間だということも、蔓を伸ばすのではなく円形に葉を広げその真中に同心円に実をつけることもその時に初めて知った。
初めてズッキーニを見た時は、そのユニークな形に目が点になったことを覚えている。

そのズッキーニを今自分で植え育てている。
黄色と緑の実をつける二つのズッキーニだ。
今次々に花が咲き小さな実も少しづつ大きさを増している。
これまではズッキーニを食べる度に函館のことを思い出していたが、今はズッキーニの成長を見ながら函館のことを思い出している。
そしてもう一つ、M田さんのことを思い出している...。

by finches | 2012-05-26 05:38 | 季節


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