902■■ 2本あった水路
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図書館で借りた一冊の産業史の中の、一枚の写真が無性に気になった。
山の上から撮ったその写真には『T用水路揚水口』と書かれていた。
その写真には、下を川が流れ、右岸には低地が広がり、左岸には山が映っていた。

T用水路の全ルートは粗突き止めてはいたものの、その揚水位置と揚水方法がどうしても分からず立往生していた。
暗渠と隧道と逆サイホンで川を渡った用水が、突如水田の真ん中に大きく口を開け、近くには当時のポンプ施設まであった。
だが、それらの関係をどう繋げで考えてみても、そこから30メートル近くも山の上に揚水するには矛盾があって、その矛盾を払拭できる揚水方法がどうしても解らなかった。

図書館で借りたその本を持って日曜日に山に入った。
やはり無理だと諦めて降りる途中で、ふとした予感から小さな水路を伝って奥へと入ってみた。
暫く歩くと、何やら構造物と思しき物と標識が目に入った。
心の中で「これに違いない」と思い、その構造物の横に立って本のページを開いた。
写真の場所は長い歳月が鬱蒼とした森に変え、川も低地も山も見えなかったが、葉先に開いた隙間の先には間違いなく写真の景色が広がっていることが分かった。

いつものことだが、調べを進めると次々に疑問や矛盾に突き当たる。
だが不思議なもので、最初はいくら探しても見つからなかった文献資料などが、その頃になると一つ二つと向こうから近付いて来る。
今も図書館から資料として4冊の本を借りているが、これらを読んで頭にあった疑問も解けてきた。

一本の用水路だと思っていた構造物は実は二本あって、その二つは異なる目的を持って同時期に建設されたものであることも分かった。
揚水場所までは暗渠か隧道でなければならない筈だという仮定、揚水場所の手前にポンプ施設と水田に口を開けた貯水池がある筈がないという矛盾、これらは二本の水路がまるで一つであるかのように装ったトリックに翻弄された結果だった。

矛盾しているから立往生した。
そして、それはフィールド踏査ではなく、文献資料でしか解明する手立てはないと思った。
文献資料はキーワードを変えて探すことで現在4冊まで見つかっている。
だが、まだまだ知りたいことは山ほどある。
隧道や逆サイホンの設計図もじっくりと見てみたい。
だから、筆者のT用水路の調査はまだまだ終わらない...。


by finches | 2012-06-08 08:49 | 遺産


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