919■■ 蜘蛛の巣
b0125465_8161440.jpg


何日か前の朝霧の小さな水滴が蜘蛛の巣のシルエットを鮮やかに浮き上がらせ、それが余りに綺麗だったので写真に収めた。
それは言葉に出来ないくらい幻想的で、霧滴は蜘蛛の巣の糸の一本一本をまるで透明な空間に浮遊するオブジェのように浮き上がらせていた。

これまで蜘蛛の巣は、二次元の網糸を空間上に広げた状態で保持するために、その最外周の糸を何点も周囲の枝や葉から引っ張っているものだと思っていた。
勿論、もっと複雑に入り組んでいるものもあったが、それは破れの補修を繰り返す中でそうなるのだと思っていた。

一重の蜘蛛の網が風に揺れているのを見ても、風が抜ける構造、糸の粘り、そしてしなやかな柔軟さが風に抵抗し風の力を吸収しているものだと思っていた。
だが、霧滴が作り出した蜘蛛の巣のシルエットは一重の単純な網ではなく、それが面外方向のどちら側への変形に対してもメインの網を保持するために、垂直に張られたメインの網をそれと直交する面外方向に吊り構造で引っ張っているメカニズムがそこにあることを知った。

蜘蛛の糸についてはマサチューセッツ工科大学の研究がある。
蜘蛛の糸は絹のように見えても実は鋼鉄や強靭な炭素繊維よりも強いそうだが、引き裂かれた後も巣全体が落ちずに済むのはどうしてなのかというものだ。
その研究によると、蜘蛛の糸には2種類あって、1つは巣の中心から外へ向かって螺旋状に張られている粘着糸の横糸で、伸縮性が高く湿り気があってベトベトして獲物を捕らえる役割を果たし、一方、車輪のスポークのように巣の中央から放射状に伸びる縦糸は、乾いていて堅く巣の構造を支えているそうだ。
そして、クモの糸の分子構造は不定形タンパク質と秩序立って並んだナノスケールの結晶という独特の組成をもっていて、ここに外圧がかかると弾性変形の範囲を超えると次にたんぱく質の変性が起こり、これらが複雑に作用し横糸と縦糸が衝撃吸収の際に異なる役割を持つことで巣の一部が破れても穴が広がらないということだ。

蜘蛛の糸の優れた組成はこの研究で分かるが、それより何よりその成分の異なる糸を巧みに操り、頼るものは最初の始点しかないにも係わらず、空中の空間に三次元の網を掛け渡し、更にそれが三次元に補強されているのだから凄い。
お陰で、筆者の自然観察に蜘蛛の巣が加わった。
だが、ほどほどにしておかないと歩き難くて仕方がない...。

by finches | 2012-07-20 08:21 | 空間


<< 920■■ 図書館の日 918■■ 明和の石仏 >>