928■■ 立ち火鉢
b0125465_8242364.jpg


前稿で炭壺と消し炭のことを書いて、ある立ち火鉢のことを思い浮かべた。
筆者の朧な記憶の中にも、それが診療所であったか、バスか駅の待合であったか定かではないが、確かに立ち火鉢の映像は残っている。
ただ、それらはこれまで火鉢として一括りにされていて、立ち火鉢という独立した呼び名で考えてみることはなかった。
なぜなら、それらは火鉢自体の高さが高いか低いかの違いであって、どれも動かすことが出来て、冬の間だけ持ち出して来て、それは置いて使うものだった。
そして、それは立って使うものというより、椅子に座って使う、そんな冬の調度としての記憶だった。

六月と雖も函館ではまだストーブが手放せない。
そんな函館の千歳坂の傍に出来たギャラリーでこの不思議な立ち火鉢と出合った。
土間に固定されたその不思議な物体に、思わず「これは何ですか」と訊ねた。
そして、その建物が旧質屋であり、この立ち火鉢は質屋の待合というか受付の土間にあったものだと分かった。
質屋の待合には椅子などは必要なく、そこは立ったまま手早く用を済ませる場所であったのだろうと想像した。
床に固定された立ち火鉢も、そんな場所の使い勝手を反映しているように思えた。

質入れの時は手を焙りながら質屋店主の値踏みを待ち、質出しの時は火箸で灰を均したり炭を立てて暖を急いたり炭を寝かせて灰を被せたり、そこにはそんな情景が見えるような気がした...。

by finches | 2012-08-09 06:01 | 記憶


<< 929■■ 布袋葵咲く―八月 927■■ 消し炭 >>