931■■ 電車が案内してくれた産業遺産
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昭和3年(1928)に完成したこの古い建物は今でも現役の事務所として使われている。
84歳のこの建物は純白の衣装を纏い、車寄せを挟んで正面に植えられた蘇鉄が建築の意匠とよく合っていた。

焼成窯を見るために工場の外周沿いに設けられた細道を歩いたことで、敷地内に残る古い建物をフェンス越しに遠望することができた。
それらは明治から大正期に煉瓦を積んで造られた組積造建築で、ドイツの技術を導入した明治期の官営工場共通の建造技術を今に残す貴重な産業遺産であることが分かった。

この建物を見たのは日曜の暑い昼下がりだった。
どこにでもあるような漁港の山手に、どこか周辺とは違う家並みの存在に気付き散策を試みたことで、普段ならば先ず出くわすことのない一両編成の電車と遮断機を介して踏切で出合った。
行き過ぎた電車を目で追いながら、電車に出くわさなければ曲がることはなかったであろう交差点を電車の消えた方角へと曲がり、古い駅舎越しに停まっている電車を再び見つけた。
そして、再びコトコトと走り始めた電車を追っていて、この白い建物と出合った。


かつての漁港の輪郭を感じ取った家並みと町名に残る歴史、一両編成の電車の思わぬ道案内、焼成窯と煉瓦造建築と白い近代建築、それらとの思わぬ出合いを楽しんだ。
それは、何か無性に得をしたように思える、日曜の暑い昼下がりの出来事だった...。

by finches | 2012-08-22 08:58 | 遺産


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