023■■ 函館伴田米殻店
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この店との出合いは今でも不思議な思い出の中にある。
それはある夜、函館の弁天で偶然に遭遇した思い出だ。
たまたま歩いていて何処からともなく人の話し声が聞こえてきた。近づくと聞こえ、遠ざかると遠のいた。そしてその音の境にあるのはこの建物だけだった。
近づくと、声の主はこの建物の中に間違いはなかったが、灯りは暗く何とも不思議な感覚だった。

深い森で道に迷い夜になった。遠くに明かりを見つけてそっと近づいてみたら、動物たちが集まって夜の集会を開いていた、そう、ちょうどそんな感じだった。

その話し声は家族のものでも、仲間同士のものでもなく、どう考えてもそれは飲み屋のそれ、そのものだった。
入ってみようと入口を探したが、その入口が見つからない。
この建物の入口とおぼしきはただ一ヶ所で、しかしそこには伴田米殻店と書いてある。
だが好奇心旺盛につき、入口の扉を開けた。
全員の視線が突き刺さるのを感じた。少しだけ、開けてはいけない扉を開けたような気まずさを感じた。

カウンターの一番奥の席に坐って周りをくまなく見た。
(看板通り米屋に間違いない。)
そこには弁天の素朴な日常の夜があった。
よそ者を黙って受け入れる優しさがあった。
遠い昔どこかで味わったような懐かしく穏やかな気持ちになって、一杯のマティーニを注文した...。

by finches | 2009-05-10 08:22 | 記憶


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