トラスはその不規則な斜材のために非常に不愉快な感じがする、とは実に言い得て妙だ。 余計な衣を剥ぎ取った構造体は押し並べて美しいものだと思っていたが、それさえも切って捨てる意識の高さに驚かされた。 そう言い切ったのは復興局橋梁課長の田中豊だが、調べてみると、日本近代橋梁史上最も著名な技術者であり、広井勇 (注記参照) が恩師であることも分かった。 田中は橋の上を通行する人の感じ方を比較してこうも言っている。 トラスはその不規則な斜材のために非常に不愉快な感じが起こるのに反し、アーチの吊材はその断面が比較的小さい為に視界を遮ることが少なく、一定間隔で多数の吊材が垂直に並列する様は端麗の感さえ起こす。 更に橋外より見た形態の美について比較すると、トラスの男性的で力強い輪郭は認めるが、優美さという点に於いて劣る。典雅にして然も雄大なる曲線美を有するアーチには到底及ばない。 今に美しい姿を残す歴史的建造物は、このような人たちの存在があって初めて生まれたことを知ると、何十倍も楽しく見ることができるだろう。 筆者も何十回となくこの橋を見てきたが、この田中豊の論文に出合って、そこには時代背景と共に間違いなく人間の意志が強く作用していたことに強い感銘を受けた...。 [注記] 「港湾工学の父」 と言われた広井勇については、別のブログ ‘街の記憶 - 築港の跡’ をお読みください。
by finches
| 2009-07-08 07:10
| 復興
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