148■■ 明石小学校 ・其七
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小島小学校・其二で、復興小学校の設計条件の中には屋上に気象天文等の観測用設備を設けるように記載があり、その実例として千代田区立九段小学校のペントハウス天井に残る風向表示板の写真を掲載したことがある。
今回の写真に写っている風向表示板は明石小学校のものとなる。
(注:写真は実際の感じを解り易く説明する為に2枚の写真を筆者が合成したものだが、使用した2枚は共に明石小学校で撮影したもの)

階段室最上部の天井まで全く手を抜くことなくしっかりと造られていて、床材や手摺もその仕上げや形状を変えることなく、最上階まできちんと仕上げられている。
そして、ここから屋上(当時の言い方は屋上運動場)に出られる訳だが、そのペントハウスの天井にこのような形で風向表示板は取り付けられている。現在は残されていないが、この風向表示板の中心軸が屋根を貫通した先には、それぞれユニークなデザインが施された矢羽根が風を受けていたことだろう。

今の小学校は廊下も階段も照明器具が当たり前のように付けられ、何処も彼処も均一な明るさが確保されている。
しかし、当時の小学校には廊下はおろか階段に照明器具はなく、窓から射し込む光だけで、春夏秋冬、陽の長い時期も短い時期も、暑い日も寒い日も、晴れた日も曇った日も雨の日も雪の日も、子供も先生も同じ条件で過ごしてた。また、過ごすことができた。今でも当時のまま廊下に照明器具のない小学校が実在するが、その学校を案内して下さった先生の言だと、「夕方になるとちょっと暗いんですよ」となる、そんなものなのだ、それで済むことなのだ。

廊下に面した教室の窓は大きく取られ、そこからの灯りが廊下を照らす。既に人のいない教室からは灯りが消え廊下も暗いが、要所要所に設けられた適度な灯りで歩行に支障は生じない。
本来日本にあった光と陰が織りなす世界、その美しさがそこにはあるような気がした。茜色に染まった空、その色が大きな窓から射し込み廊下を染める、人工照明のない豊かな世界がかつてそこにはあり、それを包容できる人の受容と感性があったことを、ふと思った。

一人で薄暗い最上階まで風向表示板を見に行く役目の子供にとって、この空間は一人では少し心もとない、少し勇気のいる場所だったかも知れない。
そんな時は、小走りに階段を上り風向きの観察を終えると、即座にまた小走りで階段を駈け下りたかも知れない。
だが、そこで感じた光と陰の幻想、緊張、恐怖、勇気を決して忘れることはないだろう。それは子供たちにとって、貴重な体験であり教育であると思う。

そして、これらも階段に‘建築の記憶’として沁み込んでいくのだろう...。

by finches | 2009-09-20 06:20 | 復興


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