その大きさに圧倒され目を奪われながらも何気なく通り過ぎる城門だが、目を凝らすとそこには余分なものを全て削ぎ落とした日本建築の美しさがあり、その背景には研ぎ澄まされた日本人の美意識がある。 この江戸城清水門はかつては29箇所にあった江戸城防備の為の城門の一つで、今も北の丸に現存している。 日本の城郭は防火・防腐・メインテナンスフリーなどの理由から瓦と石垣以外は全て漆喰で覆われていると言っても過言ではない。もともとそこには豪華に見せる意味もあったが、次第に実用本位に漆喰が施されるようになっていった歴史がある。 ところで、城の重い庇の支え方は共通していて、それは壁から突き出た梁または腕木の先で一旦桁材を支え、その桁で連続する化粧棰(たるき)を受ける構造が採られている。 しかし一般的には、この化粧棰はその四角い形状を残して漆喰で塗り込まれるのが常だが、この清水門のそれはまるで波打つような曲面を描くように整然と塗り込まれている。 これに似た造形は姫路城の石塀にも見られるが、その間隔がもっと広い為にこれ程連続した繰り返しの美しさまでには至っていない。 不透明な筈の漆喰が持つ色の重なりと深さ、それが独特な深い質感を生み出す。 そこに光が当ると、正に光と影が生み出す陰翳礼讃の世界が現れ、やがて光の減衰につれて訪れる静寂がこの建築を美しく包み込む。 かつて、日本を訪れた外国の人々は押し並べて日本の美しさを絶賛した、しかしその美しい国はどこに行ってしまったのだろう...。
by finches
| 2010-01-22 07:29
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