336■■ 桜と菜の花と蛙と気動車
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その踏切を渡る時その先に小さな駅があるのは知っていた。
しかし、いつもそれを見遣るだけでそこに行くことはなかった。

しかし、その日はその踏切を渡る時その小さな駅の方に目を遣ると、なんだか無性に行ってみたくなった。
初めて訪れたその小さな無人の駅舎はまるで映画のセットのように佇んでいた。
そしてそこには一面に桜と菜の花が今を盛りと咲き誇っていた。

知らなかったがそこは関東の駅百選にも選ばれた知る人ぞ知る駅で、既にカメラをもった二組の男女が撮影スポットを探しながら気動車の到着を待っていた。
筆者も彼らの邪魔にならないように気遣いながら、美しくカーブするレール、錆びた列車止め、使われなくなった信号機などを写真に収めた。

鉄道マニアではないが筆者ももう直ぐやってくる気動車を撮りたくなって、前夜の雨に濡れた菜の花の咲き乱れる中に人がつくった細い道を濡れながら抜けて線路脇に出た。
そこから見える線路は右に緩くカーブしながら景色の中に消えていたが、そのカーブした右側の遥か先から汽笛が聞こえ、最初想像したよりもずっと大きなカーブを描いていることが分かった。

この景色の中からどのように気動車は現れるのだろうと興味津津見ていると、その線路はカーブしながら緩く下っていたようで、気動車はその景色の中からまるで舞台の迫(せり)にでも乗っているように少しづつその姿を現した。
それは想像を遥かに超えた登場の仕方で、その隠すものがない景色の中でこんな登場の仕方があったのかと思う程見事な演出だった。

もう少し待てば反対方向へ向かう気動車が来るせいか、少し人の数も増えていた。
あの景色の中から現れる気動車も良かったが、あの景色の中に消えていく気動車も良いだろう、と思いながらその小さな駅に別れを告げた...。





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by finches | 2010-04-13 06:52 | 記憶


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