注文していたランディングネットが出来上がった。 一月に初めて工房を訪ね、あれこれと材料となる銘木の中からグリップの部分に使うそのランディングネットの個性を決定付ける木材を選び、全体の形、大きさ、グリップの形状、ネットの種類と色などを一つづつ相談しながら決めていった。 名前と電話番号を書いただけで手付もいらないと言われ「出来たら電話します」と、注文の遣り取りはそれはあっさりとしたものだった。 それから三ヶ月、お互い何の連絡もしないまま時間が過ぎ若干の不安を感じながらも、信頼して任せたからには急(せ)かせるような電話はしてはならないとじっと連絡がくるのを待った。 工房の名はSilky wood、その主人と初めて会ったのは年に一度浅草で行われる釣具の展示会で、もう二年前のことになる。 ランディングネットは幾つもの専門工房がその日の為に丹精込めて用意した個性溢れる作品を並べていたが、Silky woodのコーナーには主人が使うカメラがさり気無く置かれていて、そのワイドコンバーターを付けたLumixの上質で品の良い黒い小型カメラと、そこに並べられた美しいランディングネットが、それを作る人の物へのこだわりと人柄をそのまま伝えているように感じた。 こんなに高価なものなのかと思いながら声を掛け、自分は工芸品ではなく使い易い上質な道具を作ってくれるところを探していると話したことを覚えている。 その工房の主人も普段はそんな道具作りを心掛けていると聞き、作ってもらう時はこの人だと決めていた。 昨日それを受け取りに工房を訪れた。 話が弾み、仕上がったランディングネットを包んだセロファンを開けることなく工房を後にしたが、車の中でやはり包みから取り出して、握ってその感触と印象を伝えお礼を言うべきだったと、その無作法に後悔しきりだった。 だが、このネットが一番美しく輝くのはこの中にヤマメが気持ち良さそうに収まった時で、その時はその写真を添えて過日の無作法を詫び改めて感謝の気持ちを伝えようと思った...。
by finches
| 2010-04-19 06:39
| 嗜好
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