362■■ 村野藤吾-モダニズム

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ホール最上段にある扉を出ると小さな人溜まりがあって、前稿の階段もここにある。
この人溜まりにはこの建築に於いて建築家・村野藤吾が思い描くモダニズム建築の一環が垣間見え、筆者がとても好きな場所でもある。

ここから階段を見ると、天井と床と左右の壁によってまるでトリミングされたようなフレームの奥の階段を、黄金分割のように2本のスチールパイプが切り分けている。
そして90度視線を移すと、大きなガラスのフレームで屋上テラスが切り取られて見える。

更にその屋上テラスを囲む壁にはプロポーションが計算し尽された横長の開口が設けられ、その一方は街の景色を切り取り、もう一方はホール側面を斜めに切り取るように開けられている。
そして、そこに絶対これを置かなければならなかったであろう螺旋階段が、四角い平面の屋上テラスのこの一点しかないと言わんばかりの位置に立っている。
そしてその螺旋階段は、四角く屋上テラスを囲む壁によって切り取られた青い空に向かって、まるで吸い込まれるように伸びている。

この建築が生まれたのは昭和12年、日中戦争が勃発し世は正にナショナリズムが台頭し、それを背景に帝冠様式建築が横行していた暗雲の時代、その時代に迎合することなくこの建築は一貫してモダニズム建築を追い求めている。
それは、帝冠様式建築に載せられた日本の伝統的屋根にかえて、村野はそこに屋上テラスをつくり空を開放し、そして、そこに空に向かって伸びる螺旋階段を自由を暗示する象徴のように置いたことにも表れている。

3階の小さな人溜まりは、モンドリアンのような幾何学的抽象と、ル・コルビュジェの太陽のようなモダニズムが、幾つものフレームの中に見える場所だ...。

by finches | 2010-05-09 05:06 | 空間


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