この夏の豪雨で鉄橋が流され今や廃線の危機にある鉄道と、その元となった川が仲良く平行して走っていて、どこか満州鉄道のような不思議な名前の駅があり、その駅の近くにこの廃プラントはある。 その不思議な名前の駅と何十キロも離れたある駅と間には昨年の10月まで一日一往復貨物専用列車が運行されていた。 そのある駅からは更に工場の中へと続く引込み線が出ていて、その引込み線で一時停車する度に果たしてこの線路は今も使われているのだろうかと不思議な思いで通り過ぎていた。 川向こうに見えた廃プラントに足を運んだことで、そんな筆者しか分からない不思議が一つの点から二点を結ぶ線に変わり、その二つの点の長い歴史の入口にも立てた。 さて、サイロのような円筒が5つ並ぶこの廃プラントだが、只のコンクリート製だったら立ち寄らずに通り過ぎたかも知れない。 コンクリートの外側に鉄の箍(たが)が何段も巻かれ、その錆びた鉄に不思議な味わいを感じた。 遠くからでは気付かなかったが、近くで見るとこの錆びた鉄の箍の繰り返しと、点検用のキャットウォークから透けて落ちる光、そして至ってシンプルな鉄骨階段の規則的な並び、そしてそれらを透かして延びる繊細な影が、この無骨な物体に優しく掛けられたレースの影のように見えた。 戦後に造られたこのような廃プラントは産業遺産とは呼べないかも知れない。 産業遺産とは日本の近代化に貢献した建築・土木の近代化産業遺産を指し、一般的に明治、大正、昭和初期までのものを言うことが多いが、長崎の軍艦島がそうであるように戦後のものにもそれに相応しい歴史と力を持っているものは多い。 このような産業遺産は意外と自分たちの周りにもあるものだ。 それを只の廃墟と見るか遺産と見るか、その違いは世界遺産になったら列をつくって訪れる日本人の文化の貧しさから変えていかなければならないだろう。 だが、教育が文化を育んでこなかった長い大きな付けは、果たして取り戻せるのだろうか...。
by finches
| 2010-09-03 06:40
| 遺産
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