旧下谷小学校を訪れた同じ日に旧入谷小学校の中にも入ることができた。 後者に入るのは二度目だったが、奥まで隈無く見るのはその日が初めてだった。 少し説明しておくと、前者は昭和3年の竣工で復興小学校のグループに入り、後者はそれよりも早い大正15年の竣工だが改築小学校のグループに入る。 筆者が東京の復興小学校を調べ始めてから早いもので3年近くになり当初は20校が現存していたが、一昨年港区の旧南桜小学校(昭和3年竣工)、昨年台東区の旧福井小学校(昭和4年竣工)と中央区の明石小学校(大正15年竣工)、そして今年に入って中央区の旧鉄砲洲小学校(昭和4年竣工)が次々に解体され、現在その数は16校に減っている。 その内実際に現役小学校として使われているのは半数の8校で、その中の1校(中央区明正小学校)は既に解体の予定に入っているのが現状だ。 さて、旧入谷小学校の内部は階段や廊下や普通教室の一部に昔の面影を残していた。 教室の3つの窓からの明るい日差しは廊下側の窓と扉まで届き、竣工当時から変わらない木製の黒板二つと廊下側の回転窓が、まるで静寂の中に置き去りにされたように残っていた。 黒板や窓や扉の枠からは今のものより数段上の仕事振りが伺え、85年という長い時を経て狂いもなく、寧ろ使い込まれた中に気品と美しささえ感じる先人たちの仕事を温かい気持ちで眺めた。 二つの校舎にはそれぞれに趣があった。 だが、それは過去や古いものへの郷愁などではなく、一つの思想に貫かれて造られたものが時を経て決して色褪せないことへの尊敬の回顧であり、今こそこれら本物の空間に沁み込んだの建築の記憶を未来に継承し、その思想を伝承していかなければならないと思った...。
by finches
| 2011-01-30 03:54
| 近代モダン小学校
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