堀商店から小さな包みが届いた。 堀商店は1890年創業の鍵の老舗で、今も新橋駅近くにある古いスクラッチタイル貼の建物は歩道を行き交う人々の目を惹いている。 さて、小学五年の筆者の勉強部屋は東南の角の四畳半だったが、南側には小さなポーチがあり、東側には窓下に細長い池があった。 そのポーチに出る部分に使われていた木製のガラス戸が今も残っていて、そのガラス戸に使おうと注文したのがこのHORIの鍵だ。 その古いガラス戸は現在も当時のまま別の場所に移設して使われているが、戸としての機能だけは辛うじて果たしてはいるものの、塗装は当時のままで汚れている上に鍵もないことから、見ているうちに次第に何とか新しい戸として再生してやりたいと思うようになった。 使われている3ミリのガラスは重く扱いが不便なことから、今度は取り外しが簡単にできるようにと、ガラスから中空ポリカーボネートに取り換えることにした。 ところがこちらは厚みが4ミリあって、3ミリのガラスを入れるために掘られた溝では入らないことが分った。 この溝を拡げるのはプロでも大変なために嫌がる仕事で、もしそれを頼んだら新しく作り直した方が安いかもしれない難物だった。 だが悪戦苦闘の末、何とか溝を拡げる目処をつけたところで、古い塗装も剥がし京都から取り寄せた柿渋を塗った。 後は注文してあるポリカーボネートが届けば、それを仮入れしてみてどこにも問題がなければ、最後にこの鍵を取り付ければ全て終わる。 それにしても古いものを使い続けることは手間もお金もかかる。 当然そのことを理解しその意味と価値が分らなければこんな面倒なことはやってられない。 だが、古いものが持っている良さ、それに少しだけ手を掛けてやることで、今のものでは決して得られない温もりを手にできる。 既に溝を広げる工具や錐は買った。 今度は鍵を取り付けるための穴を開ける錐も買わなければならない。 その錐を二度と使うことがなくても...。
by finches
| 2011-10-08 04:18
| 持続
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