朝5時前におばあちゃんに起こされる。 5時20分に清水に散歩に出掛ける。 「おはようさん」と、皆が声を掛ける。 優しい言葉、東北を思い出す。 おばあちゃんが説明しながら歩く。 (中略) 本堂に上がり、蝋燭を立て、線香を立てる。 百手観音の前に座る。 おばあちゃんが経を唱える。 家族の幸せ、健康を祈り、最後に 「この青年が無事に旅を続けますよう、健康でありますよう」 と祈ってくれる。 何とありがたいことか、何と優しい人なのだろう。 これはスケッチブックの片隅に残された青年筆者の清水での思い出だ。 清水寺の近くにベランダから清水の塔が見える、昔芸者だったおばあちゃんがやっている民宿があると聞き、そこには一部屋だけ芸者時代からのものという数奇屋の和室があるというので、その部屋に何泊かした時のものだ。 昔は知恩院から八坂を通って産寧坂(三年坂)から清水寺までが特に好きで、京都と言えばいつもこの辺りに足が向いたものだ。 それはその道すがら見え隠れする八坂の塔が好きだったからで、何処から描いたのだろうと思うようなスケッチが何枚も残っている。 筆者にとってのそんな思い出深い場所に清水小学校はあった。 昭和8年(1933年)竣工の校舎は傷みこそあれ、80年近い歳月を経ても尚、矍鑠とした姿で迎えてくれた。 建物の中には歴史の記憶が深く刻まれ、屋上には京都の街の変遷を見守り続けた深い皺が刻まれていた。 八坂や清水の塔をこんな風に見る機会が訪れようとは思いもしなかった。 だが、八坂の塔は青年筆者の記憶の中のままで、その何十倍もの間そこに立ち、京の変遷を見続けてきた自信に満ちていた。 古いものをそのまま前の時代から受け継ぎ、それをそのまま次の時代に受け渡す、そのことの意味と重みが屋上から見えた京都だった...。
by finches
| 2012-03-05 07:29
| 近代モダン小学校
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