一つの近代化産業遺産の存在をきちんと後世に伝え残したいと思って調べを続けている。 その近代化産業遺産とは街の発展の礎の一つとも言える工業用水路で、その最初の出合いは湖に注ぐ小さな用水路の存在に気付いたことだった。 林の中へと延びるその用水路を辿ると、古い石積みアーチの入口を持つ隧道で地上から姿を消し、更にその用水路が地図の上から突然姿を消していることに筆者の好奇心は頂点に達した。 何とか地図の上から姿を消していた水路の全貌は摑むことができた。 サイホンと逆サイホンを駆使して走る水路は、時に田畑に口を開け、時に開渠となって山の稜線を走り、時に隧道となって地上から姿を消す。 後は水位差による自然流水では説明できないポイントでの揚水をどのように行っているのか、そのサイホンの揚水方法が分ればこの用水の全容を解明できる筈だ。 さて、日曜の午後、一旦湖に流れ込んだ用水が、今度は地中埋設管で湖からどこに行っているのかを追った。 一つ目の『工業用水』と刻まれたマンホールを見つけてからは、道路沿いにそのマンホールを追う行程はこれまでに見たことも行ったこともない場所を通り、一つの工場へと消えていた。 その地中埋設管がかつての貨物線址の下を潜って工場へ入っていたことで、以前拙稿で取り上げた場所まで足を延ばしてみた。 それは『街の記憶-廃線』に使った写真の場所で、鬱蒼とした枯れ草に覆われていた。 だが、それは残っていた。 それを見ながら、消えていく、消されていく、置き去りにされていく、朽ちていく、街の記憶について考えた。 一つの工業用水の全容が分りかけ、それを追って辿り着いた場所の貨物線址は、無残にもその歴史の記憶を寸断され朽ち果て消えようとしていた。 何年か何十年先にこの貨物線址を調べようとする者がこの場所に立った時、そこからはどんな景色が見えるのだろうか...。
by finches
| 2012-04-02 06:31
| 記憶
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